- 午前0時ちょうど、合わせ鏡の奥から悪魔が現れるという。
- 空き瓶に閉じ込めることができれば願いを一つ叶えてくれるらしい。
- だが、その儀式を最後まで試した人の話はほとんど残っていない。
合わせ鏡には、昔から「見てはいけないものが映る」という言い伝えがある。
鏡と鏡を向かい合わせにすると、景色がどこまでも続いて見える。
その終わりのない世界のどこかには、人間ではない何かが住んでいる。
そんな話を聞いたことがある人もいるだろう。
数ある合わせ鏡の噂の中でも、とりわけ危険だといわれている儀式がある。
必要なのは、鏡を二枚と、蓋のできる空き瓶を一つ。
そして時計が午前0時00分00秒を指す瞬間を待つこと。
鏡を向かい合わせに置くと、無数に続く鏡の中の世界が現れる。
その奥を、何か黒い影がこちらへ向かって走ってくる。
最初は小さな点にしか見えない。
しかし、それは一枚、また一枚と鏡を飛び越えながら、驚くほどの速さで近付いてくるという。
影には顔がないという人もいれば、角が生えていたという人もいる。
赤い目だけが見えたという話もあれば、最後まで姿は分からなかったという証言もある。
ただ一つ共通しているのは、それが人間ではないということだけだった。
影が一方の鏡からもう一方の鏡へ移る、その一瞬。
口を開けた空き瓶を鏡の間へ差し出す。
もし影が瓶の中へ吸い込まれたなら、すぐに蓋を閉めなければならない。
ほんの一瞬でも遅れれば、影は鏡の外へ飛び出してしまい、二度と捕まえることはできないという。
蓋が閉まると、それまで静かだった瓶が小さく震え始める。
耳を近付けると、誰かが何かを話しているような声が聞こえる。
「出してくれ。」
「一つだけ願いを叶える。」
「だから蓋を開けてほしい。」
そんな言葉が瓶の中から聞こえてくるらしい。
この儀式が広まった理由は、その契約にある。
悪魔との契約といえば、魂や寿命を代償にする話がほとんどだ。
しかし、この噂では代償は一つだけ。
瓶から出してやること。
それだけで願いが叶うと語られている。
だからこそ、「命を失わずに悪魔と契約できる方法」として興味本位で広まったともいわれている。
だが、不思議なことがある。
願いが叶ったという話は少なくないのに、瓶を開けた瞬間の話だけはほとんど語られないのである。
願いを叶えたあと、本当に悪魔は約束どおり去ったのか。
それとも、別の何かを置いていったのか。
誰もその先を話そうとはしない。
ある人は、「瓶を開けた瞬間に鏡が全部割れた」と語った。
またある人は、「部屋中の鏡という鏡に黒い影が映るようになった」と話したという。
どちらも確かめようのない噂でしかない。
それでも、この儀式には一つだけ共通する忠告が残されている。
願いを叶えてもらうために、決して瓶を振ってはいけない。
悪魔は閉じ込められている間も、こちらを見ているからだ。
もし深夜、合わせ鏡を覗き込んだとき、その無限に続く鏡の奥で何かが走ってくるように見えたなら。
空き瓶を用意するより先に、鏡を閉じたほうがいいのかもしれない。


