- 中国の裏路地で見つけた怪しい見世物小屋
- 樽から首だけを出した男が助けを求める
- 帰国後に判明した恐ろしい事実とは
興味本位で入った裏路地
ある夏休みのこと。
二人の大学生が中国を旅行していた。
二人とも何度も中国を訪れたことがあり、有名な観光地にはすでに飽きていた。
「せっかくだから、ガイドブックに載っていない場所へ行ってみよう」
そんな軽い気持ちで足を踏み入れたのが、地元の人でさえ近寄りたがらないという裏路地だった。
昼間だというのに路地は薄暗い。
建物はどれも古く、湿った空気が漂っている。
道の両側には正体の分からない品物を売る屋台や、何をしているのか分からない露店が並び、不気味な雰囲気を醸し出していた。
二人は不安を感じながらも、好奇心に負けてさらに奥へ進んでいった。
謎の見世物小屋
しばらく歩くと、古びた見世物小屋が現れた。
入口には色あせた布が垂れ下がり、中からは観客たちのざわめきが聞こえてくる。
「ここまで来た記念に見てみよう」
そう言って二人は中へ入った。
小屋の中は薄暗く、むっとするような熱気に包まれていた。
観客たちは皆、舞台の一点を見つめている。
その視線の先を見た瞬間、二人は息を呑んだ。
舞台の中央には大きなビール樽が置かれていた。
そして、その樽の上から人間の首だけが突き出していたのである。
最初は何かの手品かと思った。
しかし、よく見ると違う。
樽の大きさでは、とても成人男性の体は収まらない。
首の下には体が存在するはずなのに、そのスペースがないのだ。
二人の背筋に冷たいものが走った。
男の叫び
その時だった。
樽の男が突然叫び始めた。
「助けてくれ!」
小屋の中に響き渡る必死の声。
「俺はW大学三年の●●だ! 日本人はいないのか! 助けてくれ!」
男は何度も同じ言葉を繰り返した。
その顔には涙が浮かび、声はかすれていた。
だが周囲の観客たちは大笑いしている。
まるで余興でも見ているかのようだった。
男の隣に立つ興行主らしき人物も、薄笑いを浮かべながらその様子を眺めている。
二人は恐怖で体が動かなくなった。
だが次の瞬間、本能的に席を立ち、小屋を飛び出した。
日本達磨
出口へ向かう途中。
舞台の脇に掛けられていた垂れ幕が目に入った。
そこには大きな文字でこう書かれていた。
「日本達磨」
その文字を見た瞬間、二人はある想像をしてしまった。
もしあの男が本当に体を切断されているのだとしたら――。
考えたくもなかった。
二人はそのまま宿へ戻り、翌日には予定を切り上げて帰国した。
帰国後に判明した事実
日本へ戻った後も、あの男の叫び声が耳から離れなかった。
気になった二人は、男が名乗っていたW大学を調べてみることにした。
すると驚くべき事実が判明する。
確かにその大学には、男が名乗った名前の学生が在籍していたのである。
さらに、その学生は数か月前に一人で中国旅行へ出かけたまま行方不明になっていた。
警察にも捜索願が出されていたが、発見には至っていないという。
二人はそれ以上調べることができなかった。
あの日、見世物小屋で助けを求めていた男は本当に本人だったのか。
それとも誰かが演じていただけなのか。
真相は分からない。
だが、もし本人だったとしたら――。
中国のどこかには今も、人知れず存在する見世物小屋があるのかもしれない。


