- タバコのフィルターに火をつけてしまうことがある。
- その煙には危険な物質が含まれているという。
- だが、その物質の正体を知ると、この噂の見え方が変わる。
タバコを吸う人なら、一度くらいは経験があるかもしれない。
ぼんやりしていたときや酒に酔った帰り道。いつものように火をつけたつもりが、気づけばフィルター側を燃やしていた。
焦げたような、薬品のような嫌な臭い。思わず一本捨て、新しいタバコに火をつけ直す。
それだけなら、ただの失敗談で終わる。
ところが昔、この何気ない失敗には恐ろしい続きがあると噂された。
フィルターの煙は性機能を奪うという噂
その話によれば、タバコのフィルターには「トラルファマドラフィル」という安全な物質が使われているという。
ところが、この物質は高温になると性質が変化し、煙として体内へ入ることで男女ともに性器への血流を妨げるようになる、と語られていた。
しかも一度や二度では影響は現れない。
月に一度ほど誤ってフィルターを燃やし、その煙を吸い続ける生活を三〜四年続けると、少しずつ症状が現れるというのだ。
そしてタバコ会社は、その危険性を知りながら利用者へ知らせていない――そんな話まで付け加えられていた。
ある会社の担当者は、「製品は正しく使用される限り問題はない」とコメントしたという話まであり、妙に現実味を感じさせる構成になっている。
もっともらしい名前に隠された仕掛け
しかし、この都市伝説には最初から一つの仕掛けがあった。
「トラルファマドラフィル」という物質は実在しない。
その名前は、作家カート・ヴォネガットの小説『スローターハウス5』に登場する惑星「トラルファマドール(Tralfamadore)」から作られた架空の名称だといわれている。
本物らしい化学物質名に見えるよう、「〜フィル」という語尾まで付け足されているため、多くの人は疑うことなく読み進めてしまう。
笑われているのは誰なのか
この話は、単なるデマでは終わらない。
タバコそのものの害ではなく、「フィルターを逆に燃やしたときだけ危険」という些細な話へ人々の関心が向く様子を皮肉ったブラックジョークとして語られてきた。
首をくくろうとする人へ、「肌触りの良いロープです」と売り込むようなものだ。
本当に気にするべきものが目の前にあるのに、より小さな危険ばかりを恐れる。
そんな人間の奇妙な心理を笑うために、この都市伝説は作られたともいわれている。
あなたももしフィルター側に火をつけてしまったことがあるなら、この噂を思い出すかもしれない。
そして最後には、「煙より怖いのは、人の思い込みなのかもしれない」と苦笑してしまうだろう。


